R元年9月28日
「SDHを見つけよう。社会的処方とアウトリーチにチャレンジ。直面する困難と人権・希望について」
講師:栃木保健医療生協 関口 真紀 医師
まずは事例から
・トラック運転手52歳
・糖尿病で治療中 ・不定期にしか受診しない ・処方薬も時々内服するのみ ・食事治療に関する栄養指導もしたのに守れていない ・喫煙を続けている | 左は医師の目線 これをどうしてだろうと深く掘り下げる すると |
・歩合制なので収入が不安定 ・3割負担の薬代を出すのも大変な状況 ・一人暮らし ・長距離トラックで家を空けることが多く自炊できない ・予約の日に仕事が入ると受診できない ・眠くなるので缶コーヒーとタバコに頼っている | 本人のより詳しい状況を知ることで、 なんで放って置くんだろうではなく 仕方がない状況なのかと思い知らされる |
これがSDH(Social Determinants of Health)「健康の社会的要因」
貧困や生活環境が疾病や健康に作用するということ。
先生たちは、こんなSDHを見つける「気になる患者カンファレンス」宇都宮協立診療所医療事務職員で取り組んでいます。これは病気だけでなく環境や療養を見る、全て自己責任とは言い切れないという考えからです。
始めたころは「今まで話すほどではないと自分の中に仕舞い込んでいた情報」
視点を変えることで「気づきや学びにこだわらず何か気になることを出すことに」
その中から抜粋して・・
1)未成年女性「咳が続く」と受診
数か月咳が続く。妹も気管支ぜんそく。ペット飼育。家族は喫煙。家族の代わりに就労。あまり裕福でないので治療費が心配。
カンファでの発言は
- 保険は国保
- 家族と話せれば無料定額診療事業につながるか
- 家族構成などもう少し情報収集を
その後:中断せずに受診継続。今後も注意して見守ることに。
2)中年男性「無料定額診療事業の申請」
無料定額診療事業を行っていたため来院。派遣で仕事をしていたが体や手足の痛みから仕事が行えなくなった。ホームレスだった時期もある。無料定額診療の申請をし受診。生活保護の申請もした。
カンファでの発言は
- 中年で仕事が見つからず本当に大変な仕事を続けなければいけない
- 体を壊して仕事を辞めざるを得ない人が増えている
- 一生懸命な人
- それでも経済的困難になってしまう
- 企業の利益より人を大切にする社会にしてほしい
この他にも気になるカンファレンスがありましたが今回は2件のみで。
上記にある「無料定額診療事業」について
これは社会福祉法の規定に基づき生計困難者が経済的な理由によって必要な医療を受ける機会を制限することの無いよう、無料または低額な料金で診療を行う事業です。
対象者:低所得者、要保護者、ホームレス、DV被害者、人身取引被害者等の生計困難者
栃木では:済生会、協立診療所、ふたば診療所の3か所が行っています。
宇都宮協立診療所では「生活相談チームの取り組み」として社会的処方とアウトリーチにチャレンジしているようです。
メンバーは事務・看護師・栄養士など多職種
活動内容:無料定額診療事業、地域包括細谷宝木との連携、地域訪問
この活動でも多数のケースがありましたがまとめると「訪問を通じて協立を知らない人も多くいること、困ったことがあってもわからないまま生活している、訪問しなくてはわからない地域訪問の必要性を実感」とあります。
そして先生はこう続けます「私たちが直面する困難な社会」
これは、低所得・貧困との隣り合わせ・家族を作り難い人々が急増している=「アンダークラス」の増大と。
ここで言うアンダークラスとは先生が作った言葉ではなく早稲田大学の偉い教授からのようです。そして比較する数字もです。あくまで参考としてご覧ください。
正規労働者 | アンダークラス | |
週平均労働時間 | 44.5時間 | 36.3時間 |
個人の平均年収 | 370万 | 186万 |
貧困率 | 7.0% | 38.7% |
資産ゼロの世帯の比率 | 14.5% | 31.5% |
未婚率男性 | 31.0% | 66.4% |
未婚率女性 | 33.5% | 56.1% |
生活に満足 | 35.6% | 18.6% |
学校でのいじめ | 14.9% | 31.9% |
これらの人々はいま私たちの目の前にいる。そして、これから大挙して医療介護の世界に登場する。
- 親を介護しながら親の年金を頼りに生活する独身男性
- 親と同居しているが介護しきれない独身女性
- 兄弟ともども要介護状態独身男性、貯蓄無し
- 急に病気を告げられた独身女性、兄弟貯蓄無し
極めて低所得で貧困と隣り合わせ。肉体的にも精神的にも追いつめられる。家族を形成しても子供を産み育てる、基本条件すら満たせない。
このまま放置するなら日本社会に教育、住宅、医療、福祉、社会保障などあらゆる領域で計り知れない困難が生み出される。
個人の自助努力に任せるなら悲惨な結果を。
公的施策によって援助するとしたら膨大な財源が。
これだけ多数の人々に不安と苦痛に満ちた人生をもたらしてしまったことに対する社会の責任は極めて重い。
アンダークラスの拡大に歯止めをかけすべての労働者に安定した雇用と貧困線を下回らない所得を補償することは日本の直面する最大の課題。
これによって消費は底上げされ景気は回復し社会は安定と安心を取り戻す。
必要なのは人々が様々な組織や集団を通じ、ともに解決に向けて立ち上がること。
先生が教えてくれた最後のデータがアメリカのシンクタンク ビュー研究所から
自力で生活できない人を政府が助けてあげる必要はあるかについて
「救うべきだと思わない」と答えた人の割合
- イギリス:8%
- ドイツ :7%
- イタリア:9%
- 中国 :9%
- アメリカ:28%
- 日本 :38%
その国の宗教観、価値観、様々なものが反映されています。
先生がおっしゃるように、皆が少しずつ変わる必要がある社会に突入しています。初めから政府頼みは良くないでしょう。上を見続けてもきりはありません。
自分で幸せを見つけて満足する生活が一番です。
でも頑張っても頑張っても報われない人がいたらどうなのでしょう。
自分がそうならない保証はありますか?
そんなことを考えさせてくれる講習でした。