研修参加記録

秋健康祭り:社会的処方って何??

R1年10月5日

村井クリニックにて秋健康祭り開催
院長講演「社会的処方って何?」

クリックで拡大

まず「中之条研究」について

群馬県中之条町の65歳以上の住民5,000人を対象に日常の生活動作と病気予防の関係について2000年以降継続的に実施されているもの。
自立度や睡眠時間食生活など膨大なアンケート調査を行い内2,000人には詳細な血液検査、遺伝子解析を行いました。さらにその内の500人には身体活動計を携帯してもらい24時間365日の身体活動状況をモニタリング(みんなが好きな言葉^-^)

健康づくりには運動が効果的とは言われていたもののどのような運動をどの程度までは言及されていませんでした。この中之条研究が行われるまでは。
この研究によって単に歩くだけでは十分ではなく、歩く質(強度)も重要なことが分かっています。
健康維持、増進、健康寿命の延伸には1年の1日平均歩数が8,000歩以上で、その内、その人にとっての早歩き時間が20分以上含まれることが期待されます。

1年の1日平均の身体活動からわかる予防基準一覧

歩数中強度の活動時間予防できる病気
2,000歩0分寝たきり
4,000歩5分うつ病
5,000歩7分30秒要支援、要介護、認知症
心疾患、脳卒中
7,000歩15分ガン、動脈硬化
骨粗しょう症、骨折
7,500歩17分30秒筋減少症、体力の低下
8,000歩20分高血圧、糖尿病、脂質異常症
メタボ(75歳以上)
9,000歩25分高血圧(正常高値血圧)
高血糖
10,000歩30分メタボ(75歳未満)
12,000歩40分肥満

12000歩(うち中強度の活動が40分)以上の運動は健康を害する時も・・・

中之条町における医療費抑制効果(カイポケセミナーで聞いたことを思い出します。順序逆ですが良かったら管理者のFaceBookをご確認ください。)「身体活動計を用いた新しい健康づくり」の中で身体活動計の装着が健康意識の向上を促進し、身体活動を含む生活習慣の改善につながった結果、医療費抑制の効果があったと発表。

国民健康保険医療費比較(活動計装着者との比較)
・40~65歳国保加入者の医療費比較(1点10円)
・3年間の5月診療分における医療費

・70~74歳国保加入者の医療費比較
・3年間の5月診療分における医療費

国保医療費を活動計の装着の有無で比較すると低いことが分かる。装着前から元気な人が使用しているため医療費が低いことも考えられるが、活動計を装着することにより、一層健康意識の向上、健康の保持増進につながっていると考えられる。さらに元気な状態が継続されることで医療費が低く推移していることからも効果はあると考える。

この他、村井先生は「1サロンに参加していると要介護になりにくい」「2孤独・孤立は健康被害を及ぼす」「3社会とのつながりは認知症の発症率を減らせる(リスクも半減)」「4前向きな感情でも認知症の発症率を減らせる」「5孤食はうつになりやすい」等々おっしゃってました。

村井先生は分かりやすい説明をしてくれたのですが、書きとめきれなかったので中之条研究のように調べてみましょう!

1.サロンに参加していると要介護になりにくい
2.孤独・孤立は健康被害を及ぼす

まずは「1.サロンに参加していると要介護になりにくい」をネットで検索すると「数値が示すシニアコミュニティの威力《笑顔》が生み出す要介護者抑制への道」社会デザイン研究なるものを発見。

2018年8月の記事です。
「要介護者の高齢者650万人。介護費用が10兆円に達し社会負担の増大が大きな課題になりつつある。これらを大きく減らす策として考えられているのが「高齢者向けコミュニティづくり」。施設ではなく日常生活の中で高齢者同士が自然な形で交流する空気、環境をつくることで要介護状態になりにくい社会を目指す。行政だけでなく学術機関や企業が動き出そうとしている。」・・とあります。

高齢者20万人の生活と健康を追跡したビッグデータ。このデータを蓄積しているのは、高齢者がどのような暮らしを送ると健康を維持できるのかを調査するプロジェクト「日本老年学的評価研究(JAGESジェイジズ)」。大学や自治体が協力して推進している。

これまで健康を維持するためにはウォーキングや体操、食事の工夫が重要と考えられてきた。ただJAGESの研究結果からは、そういった運動や適切な食事を習慣づけるだけでなく社会そのものの設計が健康寿命に大きな影響を及ぼすことが分かってきた。

社会の設計という点ではまず「どこに住んでいるか」によって健康寿命の平均値が大きく異なることが分かっている。JAGESに協力する53の市区町村を比較した結果良いところと悪いところでは要介護リスクがさいだい2.9倍も違う。それも自然豊かな地方に暮らす人ではなく空気が悪いと考えられている都市部に住む人の方が圧倒的に健康寿命が長い。

市区町村別の高齢者の健康状態は2.9倍の差がある。
図は市区町村別でIADL(日常生活動作)が低下している高齢者の割合。88,370人の要介護認定を受けていない高齢者が調査対象。

下は定期的に運動している人に1人でやっているのか誰かとやっているのかを尋ね、その後の要介護状態になったかどうかを追跡調査したところ誰かと一緒に運動している人の方が要介護状態になりにくいというデータ。

どちらのデータも「社会的な環境」が大きく影響していることを示唆している。周囲に人がたくさんいるところで関わりを持ちながら暮らしていくことが重要。
自然と出歩いて人と会うような生活ができる街に住めば健康でいられる可能性は高い。

その他コミュニティ参加者の方が要介護状態になりにくいとの報告も。

愛知県の武富村で高齢者が集まる場所を地域に作り、夏祭り、クリスマス会、囲碁の会お茶のみしゃべる会などを開催。これまで地域活動がなかった場所に立ち上げこれらの会に参加した人たちと参加していない人たちの状態が5年でどのように変わるかを調査。

具体的には5年後の要介護認定者数の比較。
結果はコミュニティに参加した人のグループは要介護認定者の割合が約半分。

重要なのは、こうした環境を日本全国に展開すること。地域に働きかけた取り組みは小さな一部の動きでしかないが、日本の超高齢化社会という課題を解決するには、これを全国展開して社会全体を変えていく必要があるようです。そのためには企業が動きビジネスとして自走する仕組みづくりが欠かせない。などなど企業も含めると話が大きくまとまらなくなるので「1サロンに参加していると要介護になりにくい」「2孤独・孤立は健康被害を及ぼす」に関してはこの程度で。

3.社会とのつながりは認知症の発症率を減らせる(リスクも半減)
4.前向きな感情でも認知症の発症率を減らせる

次に「3社会とのつながりは認知症の発症率を減らせる(リスクも半減)」「4前向きな感情でも認知症の発症率を減らせる」こちらに関しては「国立長寿医療研究センター」などのチームが発表しています。

調査対象は全国10市町の65歳以上男女1万3984人。2003年から9年追跡。認知症で介護が必要になった人数と社会とのつながりの関連を調べています。

その結果①配偶者がいる②同居家族の支援がある③友人との交流がある④地域の活動に参加している⑤就労している・・のいずれかに該当すると認知症の発症リスクが減っていました。

該当項目が0~1項目の人は892人で、そのうち追跡期間中に認知症を発症したのは258人。5項目をすべて満たした1,818人では145人が発症。

年齢や健康状態などの影響を差し引いて計算すると0~1項目の人に比べて5項目の人は認知症を発症するリスクが46%減少。4項目だと35%減、3項目でも25%減だったとあります。

幸福感や満足感などポジティブな感情を強く持つ人ほど健康状態が良いという多くの研究報告があります。こちらは愛知県の6自治体に住む65歳以上の高齢者14,286人を4年間追跡。

ポジティブ感情と認知症発症との関連について検討しています。ポジティブ感情は5項目「今の生活に満足していますか」「普段は気分が良いですか」「自分は幸せな方だと思いますか」「こうして生きていることが素晴らしいと思いますか」「自分は活力が満ちていると思いますか」に「はい」「いいえ」で解答してもらう方法で測っています。

4年間に男性で333人:4.9%。女性で468人:6.3%が認知症を発症しました。

調査開始時点で5項目すべてに「はい」と回答していた高齢者は「はい」が1つもなかった高齢者に比べ、認知症になるリスクが男性でおよそ50%、女性では70%減少していました。(表1)また「はい」の項目が1つ増えるごとにリスクはおよそ13%から21%減少していました。(図1)

表1 ポジティブ感情の「はい」の項目が多い人ほど認知症になりにくい

  • 表の数値は、統計的な手法により認知症の発症に関連する要因を考慮したうえでの認知症発生リスクを表す
  • モデル1で年齢調整とあるのは、年齢が同じとみなした場合に、「はい」と答えたポジティブ感情項目が1つ増えるごとの認知症発症リスクを表す。モデル2と3の数値は、さらに健康状態や社会関係などが同じとみなした場合のリスクを表す
  • ポジティブ感情が1つ増えるごとに表の数値倍認知症発症リスクが減る

図1 ポジティブ感情と認知症発症の関連

5.孤食はうつになりやすい

最後に「5孤食はうつになりやすい」です。

1人で食事をすることが多い「孤食」の高齢者は一緒に食事をする人がいる高齢者に比べて男性で2.7倍、女性で1.4倍もうつになりやすいという調査結果が東京大学医学系研究科の谷友香子研究員らの研究チームが発表しています。

調査の対象は、要介護認定を受けていない65歳以上の高齢者で2010年時点で落ち込むなどのうつ症状のなかった全国24市町の37,193人。対象のうち1人暮らしの男性で85%、女性で79%が孤食だった。3年後に「高齢者用うつ尺度」という簡易テストを使って、うつ症状の有無を調べた結果、約4,400人がうつ傾向と判定。

その結果、家族形態と男女別で分析すると、1人暮らしの男性は孤食だと鬱になる可能性は2.7倍、女性は1人暮らしでも誰かと同居していても孤食だと同じ程度の約1.4倍になった。同居人のいる男性では、1人で食べるのと同居人と一緒に食べるのとで、うつ症状の出やすさに、はっきりした差はなかった。

調査結果について研究チームは「家族や友人と食事をしたり、自治体の給食サービスなどで共食を進めたりすることがうつ症状の予防につながる」とコメントしています。

ここまでの話をまとめますと「健康と幸せ」とは
・病院で薬を出すだけではなく
・サロンや交流を促しボランティアに参加する
「運動をして薬を減らし、人とのつながりを持つ」と村井先生はおっしゃってます。

病院に話を聞きにくれた地域の高齢者に熱心に予防を勧める、医師の鏡のようでした。