研修参加記録

介護運営法人セミナー

令和1年10月28日

介護運営法人セミナー
「家族からのヘビークレームへのや対応策」
~カスタマーハラスメントから職員を守るには~

講師:株式会社安全な介護 山田しげるさん

1.家族からのヘビークレームの実態

(1)利用者家族による「ヘビークレーム」とは何か?

    • 対応が困難な要求を、強硬な手段(カスタマーハラスメント)で主張する
    • 一旦受け入れるとエスカレートし、さらに困難な要求へとつながる
    • 困難な要求への対応によって、業務の障害と職員の健康被害を招く

○要求の内容が

    • 一般常識の限度を超えている要求
    • 実現が困難と分かっている要求
    • 自分だけの特別な利益を要求

○要求の手段がカスタマーハラスメント

    • 暴力的、威圧的な態度と言葉
    • 職員の人格を否定する暴言を吐く
    • 要求を長時間、何度も執拗に繰り返す

○深刻な被害

    • 職員が精神を患って失職する
    • 労働時間増加で職員の健康被害
    • 職員が利用者を虐待

(2)ヘビークレームはどれくらいで起きているか?

ヘビークレームに関する実態調査
(株式会社安全な介護では、2018年11月から2ヶ月かけてヘビークレームの実態について調査いたしました。)

<調査内容>

    1. 家族からヘビークレームを受けたことがあるか?(受けたことがあると答えた施設のうち)
    2. 被害の程度が深刻だった
    3. 被害の程度は軽度だった
    4. 業務の支障があった
    5. 職員の被害があった

<調査結果>

施設種類 対象数 経験ない 経験ある 深刻な影響 軽度の影響 業務に支障 職員の被害
特養 105 85 20 8 12 12 4
老健 35 22 13 3 10 3 2
介護付有料 35 16 19 6 13 5 1
その他 40 31 9 3 6 3 1
合計 215 154 61 20 41 23 8

この表を見て、山田さんは疑問を呈します。
「職員の被害」とは「辞めた」ことを意味しますが、「軽度の影響」と感じている件数の多さに確かに疑問を感じます。

 

(3)なぜ家族のヘビークレームが増えたのか?

→施設入所者家族によるヘビークレーム増加の背景

<社会的な要因>

    • カスタマーハラスメントの増加
      これは消費者による自己中心的で利藤な要求や悪質なクレームなどの迷惑行為をさします。明確な定義は定まっていませんが、商品やサービスの提供側に明らかな過失がないにもかかわらず、執拗に謝罪や対価を要求する、暴言や暴行に及ぶ、威圧的な言動をとるといった行為をさします。増加傾向にあるとされ、威力業務妨害罪や脅迫罪などの違法行為になりうる事例もあることから2018年に厚生労働省が「働き方改革」に一環として対策に着手しています。
    • 感情労働職種の増加
      顧客などの満足を得るために自信の感情をコントロールし、常に模範的で適切な言葉・表情・態度で対応することを求められる労働の事です。「肉体労働」「頭脳労働」に続く第3の労働形態として、米国の社会学者アーリー・ホックシールドが提唱しました。具体的には、旅客期の客室乗務員をはじめとする接客業、医療職、介護職、カウンセラー、オペレーター、教職などがあげられますが、近年はあらゆる職種で感情労働を強いられるケースが増加傾向にあります。感情労働による疲労や心の傷は回復しにくく、メンタルヘルスの不調を引き起こすことも少なくないため、社会問題化しています。
    • UAゼンセン(産業別労働組合)が、外食、タクシー、ホテル、病院、介護などサービス業の労働者を対象に2018年に実施した調査では、組合員3万人の約75%に当たる21,440人が「業務痛に悪してくれ無(迷惑行為)に遭遇したことがある」と回答しています。その割9割以上が「ストレスを感じた」と答えています。中でも医療・介護・福祉(4000件)は2位のフードサービス(1600件)の2倍とダントツ1位です。

<地域的な要因>

    • 大都市圏に多いヘビークレーマー
      前出のアンケート調査によれば、ヘビークレームは大都市圏の施設に集中していることがわかります。大都市は全てのサービス業で過当競争が激化し、一般消費者がわがままになっているという傾向があります。また、大都市圏の施設入所者は病院から直接入所する利用者が多く、家族が在宅介護を経験していない、という特徴があります。在宅で利用者を介護した経験があれば介護の苦労を知っていますし、ショートやデイサービスを利用していれば、介護サービスの限度も自然に認識します。(なんでも頼めると思っているようです)

<施設サービス固有の要因>

    • 施設が理不尽な要求を拒絶できない理由
    1. 管理者の姿勢
      管理者は「施設運営には家族との信頼関係の構築が不可欠(Yesしかない)」と家族との人間関係を重視しすぎる傾向があり、毅然とした態度でNoと言えません。また“福祉は需要が基本”と「まず受け入れてから理解を求めよう」と受け入れてしまいます。(根気よくは無理。一度受け入れたら最後です)
    2. 施設制度の上限が決められていない事(制度的欠陥)(相手は契約書を熟読してきます)
      施設介護は個々のサービス単価が決められていない包括サービスであり、サービスの受け入れ上限が決められていないのです。「母だけ週5回入浴させろ」という要求に対して「入浴は週2回まで」と言う“決まり”が無いので、拒否する明確な理由が無いため受け入れてしまいます。
    3. サービス提供を拒否する場合の“正当な理由”が明確になっていない
      例えば家族のハラスメントによって職員がうつ病になれば、家族による不当な加害行為ですからサービス提供を拒否しなければなりません。しかし、このような現実的な被害が発生しているケースでさえも、管理者「まさか退所させられないし」と、家族に毅然とした対応ができません。(退所決定は契約解除ができることであって本当に追い出すことはできません)

2.ヘビークレームの種類と家族の特徴

(1)ヘビークレームのパターン

<パターン1:利用者のケアに関係ない家族の満足のための要求>

    • 居室の洗面台の水がまずくて飲めない。浄水器を付けろ。
    • 母が心配だから毎日メールで介護記録を送れ。
    • あの認知症の利用者がうるさいからこちらに来させないでくれ。
    • 絶対に効果があるリハビリを自分が考えたから母にやれ。
    • 職員の挨拶が暗く気分が不快になる、元気に挨拶させろ。
    • 一度に使う歯磨き粉の量を正確に守れ。
    • 毎日面会に来るから見ている前でオムツ交換しろ。

<パターン2:施設業務の障害となる特別なケアの要求>

    • 母はきれい好きだから毎日入浴させろ。
    • 2時間おきに体位交換しろ。
    • 夜間は1時間おきに巡回しろ。
    • 面会に来た時はケアの記録を見せて説明しろ。
    • 身体機能の低下を防ぐためにリハビリを毎日やれ。
    • 通院の付き添いは全て施設でやれ。そのために預けているんだ。
    • 話しかけないと認知症が悪化するそうだ。30分おきに話しかけて。

<パターン3:利用者間の公平性に反する要求>

    • 2時間おきに体位交換しろ。
    • 夜間は1時間おきに巡回しろ。
    • 母は体が弱いから居室の拭き掃除は毎日やれ。
    • 毎食後にコーヒーを出せ。
    • この部屋は暗い、個室に移して窓側のベッドにしろ。
    • 家では毎日検温をしていたから施設でも毎日やれ。
    • 糖尿病なので血糖値を計って常時一定になるようにしろ。

<パターン4:要求の目的に合理的な根拠がない要求>

    • 居室の洗面台の水がまずくて飲めない、浄水器を付けろ。
    • 心配だから週に1回メールで介護記録を送れ。
    • 週2回の入浴なんてありえない、もっと増やせ。
    • 職員の挨拶が暗く気分が不快になる、元気に挨拶させろ。
    • 一度に使う歯磨き粉の量を正確に守れ。
    • 毎日面会に来るから見ている前でオムツ交換しろ。

<パターン5:暴力的・威圧的で執拗な要求(カスタマーハラスメント刑法の犯罪です)>

※暴力的・威圧的な要求手段

    • 突然大声をあげて「俺の言うことが聞けないのか!」と怒鳴りつける。
    • 「市長は私の友達だ。市長に言えばお前の首なんかすぐに飛ぶんだぞ!」と恫喝。
    • 「どこ見て聞いてんだ!ぶっ殺すぞ!」と怒鳴りつける。
    • 「お前がバカなんだろ!」と職員の頭を小突く。
    • 「俺を馬鹿にしているのか!」と襟首をつかむ。
    • 「それでも人の親か!」と職員の人格を否定する。

※異常に執拗な要求手段

    • 同じ要求を1時間以上繰り返す。
    • 1日に10回も電話をかけてくる。
    • 毎日面会に来るたびに長時間要求を繰り返す。

◎ヘビークレームをパターン化(類型化)する意味
→パターン別に要求拒否の根拠を明確にしよう

    • 「なぜ毎日入浴できないんだ、毎日風呂に入るのは常識」という主張
      どのように反論すればよいか?反論できないため、受け入れてしまうことが多い。

 

(2)ヘビークレーム家族の性格や属性

クレーマーになりやすい人の性格

    • もともと粗野で暴力的な性格の人
      言葉遣いが乱暴な人は相手のことを考えずに一方的な主張をします。自分が言われたら気分を害することを平気で人に言える人。周囲の人が遠慮するので横暴になります。
    • まじめで神経質で完全主義の人
      まじめな人が他人に思いやりがあるわけではありません。神経質で細かいことが気になる人が完全主義であれば、自分の望む完全な形を他人にも要求することがあります。
    • 自分の主張がいつも正しいと考える理論家
      自分の主張が正当であると延々と語る人がいます。理数系の理論家や知的レベルや社会的地位が高い人に多いタイプです。相手の主張する根拠を否定すると、倍になって返ってきます。
    • 他人の迷惑を考えないわがままな性格
      甘やかされて育った人や、高学歴で社会的地位の高い人は自分の主張が否定されることが少なく、絶えず自分の主張が通ると考えがちです。
    • 権力者には逆らえないが目下の者には厳しい
      上司にはへつらうがその部下にはめっぽう厳しいという人がいます。大きな組織で働くサラリーマンに多いタイプです。パワハラをしてしまう典型的なタイプです。
    • 社会的地位や職業的プライドが高い
      社会的地位が高い職業についている人は、周囲からいつも敬われているので人に配慮する機会が少なくなり、自分の考えが正しいと考えるようになります。

(ここまでまとめてみて、粗雑な人+人のことを考えられない社会的地位の高い人と括れるような気がしますね)

 

3.ヘビークレーム対応の体制づくり

(1)法人本部との連携

<施設ではヘビークレームに対応できない>

管理者は「施設運営には家族との信頼関係の構築が不可欠」と家族との人間関係を重視しすぎる傾向があり、毅然とした態度でNoと言えません。
また「福祉は受容が基本」と「まず受け入れてから理解を求めよう」と受け入れてしまいます。
ですから、一定程度トラブルが表面化した時点で、対応窓口を迅速に法人本部に切り替える必要があります。

※なぜ法人対応に切り替えるのか?

→多くのクレーマーはクレームの対応専部署に弱い
○クレーマーは専門部署を次のように考えている

↓↓↓↓↓↓↓↓↓

対応窓口を切り替えただけで、多くのクレーマーが黙る(9割以上)

 

→本部事務局内にお客様相談室が必要
○法人本部事務局にお客様相談室の設置

  • 施設現場の手に負えない強硬なクレーマーが現れた時や、法律顧問に関わる紛争が起きた時などの対応のために、法人本部事務局内に「お客様相談室」と言う部署を作ります。部署名は何でも構いませんが、交渉相手が「クレームや法律に詳しい専門部署である」と分かるような名称が最適です。一般的には総務部内に置かれることが多く、総務部長や総務課長が兼務します。執務室も部署名の表示も必要なく、名刺と名札だけ作ればOKです。
  • 施設現場での対応から本部対応に切り替えた時に、移管通知文に名刺をクリップ止めして郵送します。この名刺を見ただけで「手強い相手が出てきてしまった、施設職員のように甘くないだろう」とプレッシャーをかけることができます。

※名刺の見栄えが肝心
あえて武骨でダサいものを、オシャレ名刺はダメ

<名刺作成上の注意>

  • Eメールアドレスや携帯電話番号の表示はしない
  • 裏面は白紙にして何も表示しない
  • 紙の色は白で光沢が無いもの
  • 法人のロゴやイラストはあえて入れない
  • 字体は明朝体(警察官と一緒)
  • 無骨な印象のものがよい

→法人本部と連携したクレーム対応の仕組み

①ヘビークレームが発生したら本部に報告し本部は監視体制を敷く
②管理者が口頭で拒否し相手が強硬な場合本部で直接対応を検討
③本部対応が必要であれば施設に対応中止と移管を指示
④本部は社外関係機関と相談して直接クレーマーに対応する

 

(2)管理者用「ヘビークレーム対応マニュアル」の配布

→マニュアルが無ければ対応は不可能

施設業務や職員に大きな影響を与えるようなヘビークレームは、それほど頻繁に起こるわけではありません。発生頻度は稀ですから、これらに対応した苦い経験のある施設管理者は少ないと思われます。
ですから、初めてヘビークレームを受けた時に間違わずに対応できるように、マニュアル化して管理者に配布しておく必要があります。

マニュアルの内容を熟読して覚える必要はありません。対応の流れと考え方を理解して、発生した時に適切な対応ができるようにしておけばよいのです。
また、「管理者が自分だけで解決しようとして解決が困難になる」と言う失敗例が多いので、本部との連携対応を理解してもらいます。

<マニュアルのポイント>
管理者だけでは対応できないことを理解させる

<マニュアルの構成>

  • ヘビークレームの事例と対応方法の周知徹底
  • ヘビークレーム発生時の対応
  • 契約書、重要事項説明書、施設サービス計画書のチェック
  • 根拠を示して要求を一度拒否する
  • 法人本部への報告
  • 一度拒否しても最終的には受け入れる場合
  • ヘビークレームを受け入れる場合の手続き
  • 施設サービス計画書の変更
  • 家族面談と説明
  • 面談相手との会話の録音について
  • 要求の手段が暴力的、威圧的な場合などの対応
  • 本部お客様相談室への移管
  • 本部での対応の流れ

(3)主任(リーダー)への周知徹底
→リーダーがヘビークレームにピンと来るためには

家族から職員に対して身勝手で理不尽な要求(ヘビークレーム)があった時、職員は必ず職場のリーダーである主任に相談します。

相談を受けた主任が勝手に判断してその要求に従っては困ります。主任はヘビークレームであることにピンと来て、迅速に管理者に報告しなければなりません。

そのために、あらかじめ主任にヘビークレームの事例を明示し、施設としての対応の流れを伝えておく必要があります。

また、施設の対応の方針を主任が理解することで、職員は不安を感じることなく冷静に対応することができ、施設内の余計な混乱を避けることができます。

・主任の役割
最初にクレームに対応するのは現場の介護職員や相談員です。出来る限りたくさんのヘビークレーム事例を明示して、必ず主任に相談するように指導します。
主任は家族からヘビークレームがあった時、すぐ管理者に報告して対応の準備を行います。
ただし、通常の正当な要求をヘビークレームと勘違いしないように注意も必要です。

・ヘビークレーム発生時の対応方法について
家族から次のようなクレーム(要求・要望)があった時は、その場での回答はせずに「上司に相談して検討させて頂きます」と答えて、主任と管理者に報告を上げてください。
これらの要求を安易に受け入れると、施設業務に大きな支障が出たり要求がエスカレートして後に大きな問題となるため、施設または法人としての組織的な対応が必要になるからです。(ヘビークレームの種類と事例を明示して説明する)

4.ヘビークレームの対応手順

  • クレームの発生
    <管理者への報告>
    ヘビークレームに該当するような要求が発生したら、すぐに管理者に報告を上げます。ヘビークレームに該当する要求はその場での回答は避けて「上司に報告して検討し後程回答させて頂きます」と答えます。「ヘビークレームでは?」と疑われるものについても、同様の対応とします。クレーム受付表に要求内容と要求の手段(要求における言動)を詳細に記録させます。「今すぐに窓を拭け」などと言われた場合は、トラブルを避けるために従います。
  • 施設サービス計画書の確認
    <要求の拒否が契約違反にならないか?>
    「1日5回口腔ケアをしろ」と言うヘビークレームを拒否しようとするとき、いかに根拠が正当であっても施設サービス計画書に「口腔ケアは1日5回」と書いてあったら拒否できません。拒否すると契約違反になってしまいます。
    また、施設サービス計画書に「誤嚥性肺炎防止のための口腔ケアの徹底」などと、あやふやな表現で書かれていると、家族の主張を追認することになり、家族の「1日5回口腔ケアをしろ」と言う要求を拒めなくなります。
    施設サービス計画書は、入所契約書・重要事項説明書と同様に、契約条件を定めた法的拘束力のある約定ですから注意が必要です。
    <「居室に監視カメラを付けるぞ」と言ってきました>
    入所契約上拒否できるか?特養と介護付有料では違う?(特養はできない。有料は居室の固有の権利があるのでできる)
  • クレームの受付と本部報告
    <受付表は具体的に記入する>
    クレーム受付表に要求内容と要求の手段(要求における言動)を具体的に記録します。要求発生以降も執拗に要求を繰り返す場合は、会話を録音することが必要です。
    施設管理者は相談員や主任などと相談して、ヘビークレームとして本部へ報告すべきかどうかを検討します。
    ヘビークレームかどうか疑わしい場合には、暫定的に本部に報告を上げます。本部に報告を上げたクレームについては、その後も対応状況を連絡します。
    要求内容への対応が困難である場合、要求手段が暴力的・威圧的である場合には、相手の言動を詳しく記載します。
    特に言葉は「威圧的な態度で」「暴言を吐いた」などと漠然とした表現を避け、カッコ書き(直接話法)で「お前ぶっ殺すぞ」と言った、と記入しなくてはなりません。
    【クレーム受付け表(例)】
    (クリックで拡大)
  • 会話は必ず録音する※必須
    <正確な記録のための録音>
    後日ヘビークレーム家族に対して、法的な措置を含めた厳正な対応を行う際に、相手の言動に関する記録が不正確では困ります。特に暴力的・威圧的な言動をする家族に対して、この言動を止めさせようとするとき、記録が「暴言を吐いた」などの漠然とした表現では主張が出来ません。
    どのような暴言か正確に直接話法で記録するためには、会話の音声を録音しておく必要があります。
    会話の一言一句を全て記録する必要はありません。後日「貴殿の○○という発言は」と不当な発言を指摘する時に役立ちます。
    <無断録音は許されるのか?>
    答)相手に無断で会話を録音することは違法ではない≠盗聴=刑法で違法ではない
    「無断録音は盗聴だろう、違法だ、訴えてやる!」と言われたら「相手の承諾なく面談の会話を録音する行為は違法ではありません。
    どうぞ警察に訴えてください。あなたとの会話を記録するために必要なのです」と答えましょう。
    ※録音データの取り扱いは重要です=漏洩は大問題
  • 管理者による要求拒否の回答
    <要求を拒否する>
    クレーム発生時に「要求を持ち帰り検討する」と返事をしていますから、要求が受け入れられるかどうか回答しなくてはなりません。
    家族が面会に来た時についでに話すのではなく、できる限りきちんとアポを取って別室で話すようにします。
    面談時には相談員と介護主任など役職者が二名で臨むのが好ましいです。
    受け入れられない要求であれば拒否する意思表示をしますが、拒否することの正当な根拠を説明しなければなりません。
    <ヘビークレーム拒否の正当を説明>
    ケアに関係ない家族の満足のための要求に対しての反論話法
    →「お風呂が好きなので毎日入浴させたい」と言う要求
    当施設では、ご家族の皆様の個別のご要望にも、できる限りお応えしたいと考えていますが、ご要望に沿うことができない事があります。
    ご利用者のケアに必要な業務が最優先であり、限られた職員体制で運営しておりますので何卒ご理解を頂きますようお願いいたします。
    お母さまの生活に必要不可欠と言うことであれば、検討させて頂きます。
  • 暴力的・威圧的な要求手段などの是正を求める
    <暴力的・威圧的な要求手段>
    「大声を上げる」「テーブルをたたく」などの暴力的・威圧的な要求手段は、刑法に抵触する違法行為(犯罪行為)かもしれません。
    職員は恐怖心から要求に従ってしまいますから、管理者から止めるように注意しなければなりません。
    しかし、管理者も身の安全を守らなければなりませんし、若い女性の管理者が暴力的な男性クレーマーに対抗するのは無理があります。
    管理者は「“止めて欲しい”と言うだけ」で十分で、どうしても辞めさせる必要はありません。
    <職員へ直接命令する>
    「今すぐ部屋を片付けろ」「窓が汚れているから拭け」と目の前で対応するように命令する家族がいます。
    施設業務は役割分担があり、部屋を片付けたり窓の汚れを拭くのは、介護職員の業務ではありません。
    管理者が職員に直接命令を止めさせるように、家族に注意しなければなりません。
    「職員の業務には役割分担がありますから、直接指示するのはやめてください。管理者か主任に言ってください」と注意します。
  • 管理者による是正対応
    <「是正対応を行った」と言う事実を記録することが重要>
    後日法的手段をとるための状態
    暴力的・威圧的な要求手段に対しては、本部対応に切り替えた時事実の記録を明示して、「再三中止を要求したにもかかわらず」と警告しますので、管理者による是正対応が必ず必要になります。
  • 正当な理由があれば受け入れる
    <過剰なサービスを制限する決まりが無い>
    家族と面談して要求への回答を説明します。一旦は要求について拒否することを回答しその根拠について説明します。
    また、介護計画書の変更が必要になることと介護計画書の法的な性格についても説明しておきます。
    一旦は「このような理由で基本的にはお断りしている」と要求をお断りしたうえで、「個別の事情がある場合には、ご相談させてください」と検討の用意があることを説明します。
    しかし、施設はサービス量についての上限の規定がありません。過剰なサービスでも正当な理由があれば拒めません。
    「お母様は皮膚が弱いということですし、過去に疥癬の既往歴もありますから、週3回の入浴ではどうでしょうか?」と提案すれば少しで要求を下げることができます。
  • 正当な理由があれば拒めない
    <施設サービスは上限が決められていない>
    →標準的な施設サービスを著しく超える要求
    ○母はきれいずきだから毎日入浴させろ
    ○2時間おきに体位変換しろ
    ○夜間は1時間おきに巡回しろ
    ○面会に来た時にはケア記録を見せて説明しろ
    ○通院の付き添いは全て施設でやれ。そのために預けているんだ
    ○話しかけないと認知症が悪化するそうだ、30分おきに話しかけて。
  • 止むを得ず受け入れる場合
    <要求を受け入れる場合のルール>
    すべてのヘビークレームを拒否できるわけではありません。基本的に「週3回以上入浴サービスは提供できない」という“決まり”が無いからです。
    止むを得ず相手のヘビークレームを受け入れる場合には、組織的な手続きが必要になるように説明しておきます。
    例えば、「お母様の入浴回数を週5回に変更するためには、本部への申請書の提出と施設サービス計画書の変更が必要になります」と説明すれば、相手は「軽い気持ちで言ったのに施設にとっては重大なことなんだな」と事の重大性を多少理解します。
    <要求を受け入れるには手続きが必要と説明>
    →施設にとって重大な問題であると理解させる
    →本部への申請と施設サービス計画書の変更
    <在宅介護の経験が無い家族は施設の仕組みを知らない>
    在宅での介護経験が無くショートステイを使用したことも無ければ、施設サービスは“どんなことができて、どんなことはできないか”も良く理解していないことがあります。
    また「お母様の入浴回数の変更は、サービス提供の契約変更になりますから、施設サービス計画書の変更も必要になります」と説明します。
  • 施設サービス計画書の変更手続き
    <施設サービス計画書は最も重要な契約書である>
    ヘビークレームを受け入れる時には、「施設サービス計画書」の変更手続きが必要であると説明します。施設サービス計画書歯、施設が具体的に提供するサービスを細かく決めるための契約書と言う法的な性格があります。
    入所契約書と重要事項説明書は、施設が提供する標準的なサービスを記載しているだけで「○○さんにどのようなサービスをどれくらい提供する」という具体的な内容は書かれていません。
    施設サービス計画書を作って初めて具体的にどのような介護サービスを提供するのか、入所者や家族と契約できるのです。
    ですから施設サービス計画書は契約書として、施設と利用者に拘束力があり、これに違反すれば債務不履行(契約違反)となります。
    施設が提供する介護サービスの詳細を記述する、法的効力のある書面は施設サービス計画書だけです。
    施設サービス計画書の変更と言う面倒な手続きによって、要求のエスカレートを抑えることができます。
    <過剰な要求のエスカレートを抑える>
    要求の受け入れは契約条件の変更であると理解させる
  • 要求の手段が暴力的・威圧的な場合の対応
    <要求が正当でも手段が暴力的・威圧的な場合>
    机をたたく(蹴る)または暴言を吐くなどの暴力的な言動で威圧して、要求を押し通そうとする人がいます。まず、違法行為(法律に抵触する行為)かどうかチェックします。
    特に刑法に抵触する行為をする相手に対しては、迅速に厳しい対応をする必要があります。”襟首をつかむ”という行為は暴行罪に該当しますし、”お前ぶっ殺すぞ”と相手を脅かす行為は脅迫罪に該当しますから、警察に告発することができます。
    また、故意または過失によって不当に他人の権利を侵害する行為は不法行為ですから、その行為をやめさせたり損害賠償を請求することができます。
    とうぜんこれらの違法行為や不正行為を行う相手に対しては、債務不履行を主張して入所契約の解除を主張することができます。
    介護サービスは正当な理由なく提供を拒否することはできませんが、違法行為や不法行為はこれらの”正当な理由”に間違いなく該当しますから、退所要求をする自由となります。
    <クレーマーの行為が刑法に抵触するケース>
    暴行罪:殴る蹴るの暴力行為の他にも、頭を小突く、襟首をつかむ(机をこちらに蹴る、1杯の水をかける)
    傷害罪:暴行の結果傷害を負わせた場合
    監禁罪:脅して帰れなくしたような場合
    強要罪:無理やり土下座させて誤らせる
    脅迫罪:「お前ぶっ殺してやる」と言葉で脅す、PTSDになれば傷害罪
    恐喝罪:脅迫して金品を提供させる
    不退去罪:「帰ってください」と何度言っても居座る
    名誉棄損罪:公の場で人を誹謗中傷する
    侮辱罪:人を侮辱して精神的苦痛を与える
    威力業務妨害罪:一日に何度も電話でクレームを言ってくる(判例は1日14回)
  • 本部対応に切り替える
    <本部から施設に対して移管を指示する>
    一定期間施設管理者が家族の要求に対し、要求には応じられないと説明したにもかかわらず、納得せずに迷惑行為や暴力的・威圧的な手段で要求を繰り返してくる場合があります。
    本来この時点で対応窓口を本部に移管しなければなりませんが、施設管理者は自分で何とか解決しようと頑張ってしまいます。管理者が頑張っても、ヘビークレーム家族が狡猾な相手になると、施設管理者の対応や発言などの不適切な点を粗探しして、新たにクレームの材料とするなどエスカレートして泥沼化していきます。
    そこで、一定期間進展が無く鎮静化しなければ、本部から施設管理者に対して対応窓口の移管を指示します。
    本部は「この相手は手強く長期化する」と判断したら、施設管理者からの移管要請が無くても積極的に支持しなければなりません。
  • 本部対応方針を決定
    <対応経過の確認と対応方針の決定>
    移管を指示したら、それまでの対応経過を確認し、どのような対応手段が可能か判断し、顧客相談室としての対応方針を決定します。
    家族に対しては、「退所要求の検討」「警察への告訴」「賠償訴訟」などの用意があることを伝えますが、あくまでも最終目的はクレームの鎮静化です。
    <本部対応の目的>
    本部が対応することでクレームの鎮静化を図る
  • 弁護士への相談(相手に通知する時に弁護士を入れたことを書く)
    <顧問弁護士でなくてもよい>
    施設での対応経過を精査したら、相手に対してとるべき対抗手段について弁護士と相談します。法人で顧問弁護士がいない場合には、損害保険会社や弁護士会が提供している「無料相談サービス」を利用します。弁護士への確認事項は次の2点。
    ①要求拒否を主張することの合法性 ②相手の要求手段の違法性
  • 警察署生活安全課への相談(相手に通知するために行く
    <警察官の階級と氏名を確認する>
    次に管轄の警察署の生活安全課に、「入所者の家族から暴力的・威圧的な手段で不当な要求を受けている」と説明して相談に行きます。
    対応経過の記録から、相手の暴言などの記録を持参して、次の2点について相談します。
    ①相手の暴力的な言動が刑法に抵触するかどうか?
    ②抵触するとしたら警察にどのような協力を要請できるか?
    相談した相談相手の警察官の名刺をもらいます。名刺がもらえない時は、階級と氏名を確認してメモします。
  • 市町村介護保険課への相談(役所に行くことが脅しにならないぞと相手にわからせるため)
    <サービス提供拒否の正当な理由であることを確認>
    サービス提供拒否を主張した場合、相手は必ず市町村の介護保険課に「不当なサービス提供拒否である」と苦情申し立てをします。
    相手が苦情申し立てをする前に介護保険課に相談し、「職員への人権の侵害であり健康被害の恐れもある」ことを明確にしておきます。
    <弁護士と警察への相談は最重要項目>
    弁護士・警察と緊密に連携していると見せる
  • 内容証明郵便で要求の中止を求める(受け取ってないと言わせないため)
    <顧客相談室による直接対応>
    弁護士と警察に相談したら、クレーム対応窓口移管すること、クレームの中止を求めることを内容証明郵便で通知します。
    「法人として法的な対抗措置を執る」ことを伝える文書ですから、不適切な表現が無いように弁護士に確認してもらいましょう。
    また、本部対応によって施設職員への暴力的言動が激化しては困りますので、「施設職員は本クレームには一切対応しない」と明確にしておきましょう。
    【(参考)要求の中止を求める文面】
    (クリックで拡大)
  • 不当な要求を止めなかったら
    <「出るところに出る」と言う相手はしない>
    クレーマーはこちらが毅然とした態度で、相手の不当な要求を拒否しようとしたとき、「出るところに出ても戦う」と言う相手はまずいません。
    公の場で不当な要求の中止を求められたとき、自分の立場が弱いことをよく理解しているからです。
    しかし、万一相手の不当な要求やハラスメントを止められなかった時、どのように対応したらよいでしょうか?

ヒント 家族の身勝手で理不尽な行為のために、本来利用者が当然の権利として受けられる医療や介護のサービスが受けられなくなったら、どう対応すべきでしょうか?

研修を振り返って:ヘビークレームへの対応策をまとめてきましたが、原因(引き金)は必ずあります。人と人の関わり合いを仕事としている以上、関わり合い方が重要です。へりくだった態度がベストだとは言いません。
重要なことはポイントポイントできちんと伝える。後回しにしない。ご理解いただけたか確認する。弁護士さんへの相談や内容証明郵便なんて使わない事が一番です。一番は利用者さんの利益を守れることですから。