R1年9月9日
あおば、ふれんど岡本、のん美里ホームながおか
「事例検討会を通してケアマネジメント力を高めよう」 ~野中式事例検討の実際を学ぶ~
講師:奥田亜由子(社会福祉士、主任介護支援専門員)
日本福祉大学・金城学院大学非常勤講師、日本ケアマネジメント学会理事 認定ケアマネジャー
今回は特定事業所である「あおば」「ふれんど岡本」「のん美里ホームながおか」さん主催の事例検討会に参加してきました。
通常3事業所で行う研修なのでしょうが、素晴らしい先生もいらっしゃるので今回のように他の事業所にも門戸を開いていただけました。感謝です。
まずは、事例検討会の必要性をおさらい。
ケアマネジャーや地域包括支援センター職員中心に行った支援の振り返りを多くのメンバーで行うことで今後の支援に役立つ、気づきができる。
担当者が行った支援をほかのメンバーと共有する機会となり専門職の人材養成にもつながる。
多職種・多機関のチームメンバーが参加することで様々な視点や専門職としての意見・考えを聞くことができる。
事例検討会を積み重ねることで、支援困難事例の解決につながる方向性が明らかになり地域ケア会議での検討を地域包括支援センターに依頼し地域としての課題が見つかる場合もある。
そして支援を必要とするケアマネジャーの悩み、気持ち、考えは・・・
・支援困難事例でもとりあえずのサービスプランで対応。
・既存のサービスでは対応できない課題があって困る。(そうそう。介護保険サービスでなんでも対応できる訳ではないんです)
・地域ケア会議は、いつどうやって活用していいかわからない。(わかりませんね。関わりがないと)
・個々の感性と経験による判断になりがち。他者からの意見を基に事例検討したい。
・支援困難事例だと頭が混乱するので整理方法を得たい。(全くです)
地域ケア会議に至るまでの構造の試案として
- 事業所内での事例検討。ここがまず必要。ケアプランだけでは分からない考え方を理解。
- サービス担当者会議。利用者参加。会議での発言は事業所の意見。主任ケアマネジャーの役割が必要。
- 担当専門職中心の事例検討。ここが開けれていない可能性が高い。支援困難な場合、地域包括の支援開始。
- 専門職での地域ケア会議。事例検討。スーパーバイザー、コンサルタント、主任ケアマネジャー、他の専門職、PT、OT、薬剤師、栄養士、弁護士等
- 地域ケア会議。インフォーマル支援者含むネットワーク形成。地域包括支援センター、市町村保険者の正式な会議。
1~5まで段階を踏むことが重要。
この地域ケア会議の積み重ね、個別ケースの地域ケア会議の積み重ねが事例研究につながり地域課題の抽出となります。
いきなり地域関係者を集めての地域ケア会議を開催することは無理があり専門職の方針の一致がある程度必要です。
ここまで書いてきた、困難事例の整理方法や、地域ケア会議などの事例研究に役立つとされているのが「野中方式による事例検討の展開」です。
(野中式事例検討とは、日本福祉大学研究フェロー、日本精神障碍者リハビリテーション学会長等を歴任された故野中猛先生が生み出し全国各地で実践されている事例検討の方法との事です)
- 何のために事例検討するのか
- 「野中方式」事例検討の特徴
- 「野中方式」事例検討の展開過程
- 「野中方式」事例検討の実際
まずは「1何のため」
事例検討会の必要性は細分化すると
- 利用者の見立てと手立て
- ほかの領域の知識を知る
- 資源同士のネットワーク
- 情緒的支えあい
- 研修機能
- 地域課題発見
上記6つを発展させ
- 客観的情報の交流
- 主観的感情の交流
- 発想の交換
- 当面の方針決定
- 役割分担
となるようです。 そして事例検討の目的は
「事例と事例提供者の応援」です。
- 提出理由、検討事項の明確化
- 解決のための方向、方策、手立てを明らかに
- そのためにアセスメントする
- 本人の意向≠ニーズ
次に事例検討会のメリットは?
- 情報の共有:関わるチームメンバーが直接または間接に把握している情報を集約し、共通認識を持てる。
- 判断の共有:単なる情報の集積ではなく、判断の共有過程になる。
- 価値の共有:支援の質、専門職の自主性、機関の目標及び支援内容などについて専門職の間で価値観を共有できる。
つまり、ケアマネジメント、相談支援、ソーシャルワーク、事例検討・・・
これらはなんのために?と問うてみると
「幸せが基本」 利用者の幸福追求権を追及ということです。
ここまでを踏まえて「野中方式」の事例検討の特徴です。
- 事前資料無し、机無し→簡単(ホワイトボードや大き目模造紙を情報共有ツールに)
- 事例提供者に質問→アセスメント力を磨く(どの場所を、どの角度、どの深さで)
- 多様な質問、疑問、意見、自分にない見方、考え方との出会い→多様性、柔軟性
これらはフラットの関係、フラットな場づくりにも関心を持ってくれる人には心を開きます。
「野中方式」事例検討の特徴その2
- 知らない知識、仕組み、チームとの出会い→領域を超える連携力
- 事例提供者の頭の中にあることを再構成(この時話だけ聞いていると他の意見が出ません)→断片・・静止画・・動画
- 明日から実際に何をするか→実践的。明日からの具体的な活動が見えてくる。
言葉だけで表現すると難しいですけど少し図があることで時間や広がりが分かりますね。
「野中方式」事例検討の展開③ 見立て(アセスメント)
- 今は何がどうなっている?(現状の査定)・・その時、その言葉、その物
- ここまで来た歴史
- 後ろには何が隠れている?(背景理解)・・華の時代、人生転機
- 核心、キモ(アセスメント要約、主要主題の把握)
ポイントとしては白紙から考え、あえて日常の領域をわきに置き、リアルな人として、抽象化しない。
「野中方式」事例検討の展開④ 手立て(プランニング)
- あるべき姿、本人の希望・・「こうなりたい」私
- 本人の強み、可能性・・やる気で取り組める
- 目標と計画(本人の目標、本人の計画)(支援者の目標、支援者の計画)・・・本人の役割、まわりの役割
- 役割分担とスケジュール
こちらのポイントは元気になるプラン、力がたまる・出てくるプラン、できそうなこと・現実的なこと
日本ケアマネジメント学会では、集団スーパービジョンの標準化を目指して以下の手法を掲げています
次は野中先生方式の事例検討会を図式化したものです。
そしてシートを活用した情報整理
- 個別相談での活用(スーパービジョン)
→ケアマネジャーからの相談、自分の事例の整理 - 地域ケア会議、事例検討会での活用(グループスーパービジョン)
- ホワイトボードを使用してその場で情報を共有
- 会場からの質疑により気づきを促す
- 事例提供者の発言をもとに事実か推測かを明確にし利用者の全体像を把握するよう努める
- 事例提供者を中心に参加者が提案しプランニングすることができる
- 地域の多職種の参加が可能。重要なことは一人での判断ではなくチームアプローチ
事例を可視化する
生活側面ごとに情報を整理・アセスメント
↑で記入した生活情報分類シートは↓に分けられます 。
「野中方式」事例検討のルール~グランドルール~
- 場のルール
・守秘義務
・日常の立場、役割から離れて「頭を自由に」
・どんな質問、意見も安心して話せる環境 - 参加者のルール
・非難、批判しない
・質問は一人ひとつ
・ホワイトボードを見ながら(メモなし)
・できるだけパスしない - 事例提供者のルール
・事例提供者は事実を回答
・推測、思いは事実と分けて
・「分からない」もok
質の良い「事例検討会」に参加して得られるもの
- 徹底的な対象者理解
- 地域も巻き込んだ多職種連携
- ストレングス視点
そして情報・価値観・判断を共有する
地域課題の抽出
個別事例の支援方針作成をする中で、他の事例にも共通する地域課題が抽出できることがあります。地域の多職種、行政で解決が必要な課題。
目の前の支援と広い視野での地域支援、普遍的な課題を見抜く力、視点を身に着ける。
地域ケア会議の開催
個別事例のケース検討・多職種協同
↓ここからスタート
必要な地域包括ネットワークの構築
↓地域の力
個別課題から、地域課題への展開
↓制度・政策に反映させることも
既存の資源の再資源化
↓フォーマル・インフォーマルも
新たな資源開発
事例検討会は何回も回数を重ねることで深めることができるようになるようです。地域包括支援センター、ケアマネジャー、専門職チームで質の高い利用者支援ができるように取り組みを望まれています。
少人数での事例検討会から始めると良いようです。
講師の先生も素晴らしい方で
1人事業所ではなかなか行えない貴重な研修でした。